梅雨時のある日、埼玉の給水塔を見てきた後、そのまま多摩地方の給水塔を見に行った。
都内に戻ってきてからまず向かったのは、京王線の仙川駅。
調布市までが多摩地域に入るため、仙川はギリギリ多摩地域となる。
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やってきたのは東京都営仙川アパート。
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包帯を巻いたようなフォルムの給水塔で、清瀬の野塩団地で見たものと同じ形状。
この給水塔は映画『クロユリ団地』にも登場している。
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この給水塔は自分にとって少し特別で、それは人生で初めて、給水塔の存在を認知した場所であるからだ。
仙川は適度に洒落れた雰囲気と静かさが共存しており、長く好きな場所で、結構な頻度で訪れている。
おいしい「魔女のカレー」や「カリーバー・ミルチ」の他、一人で静かな時間を過ごすのに最高な「レキュム・デ・ジュール」もあるし、今こうして振り返っても最高でしかない。
10年以上も前、仙川を歩いている時に空に浮かぶこの塔に気付き、そのあまりの存在感に驚いて、わざわざ見に行った。
今では散歩中に珍しい塔を見つければ、もれなく足を止めているけれど、きっかけはこの給水塔だったのではないか。
おそらくあのころと変わらぬ姿のままで、給水塔はおれのことを待ってくれていた。
自分を取り巻く環境や人間関係は、180度とは言わないが、90度ぐらいは変わってしまったというのに(最初に訪れた時は確かデート中だった)。
複数の給水塔をめぐるとなると、時間はいくらあっても足りない。
急ぎ足で仙川を後にし、同じ京王線の国領駅へと向かう。
かねてからずっと気になっていた、給水塔好きの間で「聖地」とされている多摩川住宅が次の目的だ。
このブログではタイミングの問題で、先に夜の多摩川住宅の写真を載せてしまっているんだけども、時系列的には昼に訪れたほうが先となる。
多摩川住宅は同一形状の給水塔が同じ団地内に5基も存在する、唯一無二の場所だ。
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少々すすけた煙突のような給水塔。
この汚れ方が、何ともいえない味があっていいのだ。
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謎のオブジェとのコラボレーション。
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入り口はこんな感じ。
複数の給水塔は形状こそみな同じだが、扉の色がそれぞれ異なる。
実は関係者の方もたくさんある給水塔の区別がつかなくなる時があり、扉の色で見分けているとかだったりしてね。
これは白色かな。
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2基目。
見て分かる通り、これはレンガ色の扉。
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実をいうとこの時の訪問では、5基中4基しか見つけることができなかった。
でもこの多摩川住宅は団地そのものも広く、まるで一つの国のような雰囲気すら醸しており、すっかりお気に入りとなった。
夜に行った時も楽しかったし、次あたり、夜に多摩川住宅の給水塔を見た後に周辺のバーで一人飲みでもやろうかと、こっそり画策している。
もう少し涼しくなったらね。
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3基目の給水塔へ。
外見はどれも同じなため、写真だけだと変化に乏しいので、ぜひとも気になった人は行ってみるべき。
見上げて拝む給水塔の姿は、写真や文章ではなかなか言い表せない。
多摩川住宅も再開発計画があるというし、この団地のシンボルである給水塔も、建て替え後に生き残る保証はないだろうので。
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この給水塔は、同団地内の他のものに比べて、住民との距離が近い存在であった。
なぜかというと。
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そう、他の給水塔は四方が柵で囲われているのだが、ここはそうなっておらず、普通に給水塔に触れられるようになっているのだ。
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この給水塔の扉は水色。
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容易に近づけるため、落書きがされているというね。
この給水塔のそばで、おそらく周辺の学校に通っている小学生の子たちが井戸端会議を行っていたし(自分らの思っていることがどこまで先生に伝わったかみたいな、いたって真面目なことを話していた)、この団地では、給水塔が人々の日常に違和感なく溶け込んでいるようだった。
次は4基目の給水塔。
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が、この時はすでに疲労困憊だったせいか、なぜか目前まで近付いた写真が残っていなかった。
残念。
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団地内の給水塔はみんなそこそこ距離が近く、2基を同時に写真に収めることは容易だった。
3基同時も、場所によってはできそうな気もする。
多摩川住宅を歩いていた時、違った方向に別の給水塔を発見したので、次はそこへと向かう。
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明らかに多摩川住宅のものとは違う、自分にとってもおなじみとなった、あの形状だ。
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ここは元々存在を知らず、たまたまの遭遇だったんだけど、どうやら都営染地三丁目アパートの給水塔のようだ。
調布には布田や染地といった地名があり、江戸時代までは、多摩川でさらした布を調(その土地の特産物をおさめる税金のようなもの)として国に納めていたそうで、その名残が地名として残っている。
都営染地三丁目アパートは多摩川住宅から歩いて10分足らずと、近い位置にある。
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穢れなき白い給水塔。
そしてこのあたりにはもう1基、面白い形状の給水塔がある。
次に向かったのは都営狛江アパート。
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空を割くような、爽やかな水色の給水塔。
その形状は『団地の給水塔大図鑑』によるところの「むき出し型」だ。
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これすごいよなあ。
上に行くためには急な階段を上らないといけない上に、視線を落とせば地上が丸見え。
高所恐怖症の自分は、想像しただけで失神しそうになる。
今でも実際に給水塔の中を、人が行き来することってあるのかな?
いくつかの場所で給水塔を見たが、今のところ内部に人の姿なり気配を感じたことは一度もない。
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前はもっと錆びていたが、塗り直したらしい。
多摩川住宅からも歩いて15分とかそこらなので、このあたりの給水塔は一気に回ってしまえる。
狛江~国領のあたりは給水塔王国ですな。
さて、この後も引き続き多摩地方の給水塔を見る。
国領から京王線で調布駅に行き、そこから京王相模原線へと乗り換え、京王永山駅へ。
ここにはあの『耳をすませば』の中にも登場しているという給水塔があるという。
『耳をすませば』は大分前に見たが、その時は給水塔に興味がなく、実際に画面で確認してはいないんだけど……今度給水塔目的で見直してみようかな?
ストーリーもまともに覚えてないけど、ヒーローのせいじ君(漢字は忘れた)が中学校を卒業したらヴァイオリン職人を目指すためイタリアだかに修行に行くというところは覚えてて、すさまじい行動力だなと。
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目的地は目の前の骨組みではなく、その奥の給水塔。
駅から出て早々に姿が目に入り、意外に近いなとホッとしたものの、実際歩いてみるとなかなか遠かった。
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加えてこのあたりは高低差があり、給水塔は完全に高台の上にある。
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とうとう目前に迫った。
都公社愛宕二丁目住宅の給水塔……というか、すぐ隣にある愛宕配水所の給水塔という扱いになるのかな?
周辺に電線が張り巡らされており、まったく障害がない状態で撮るのは難しい。
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もはやタワーのよう。
この淡いエメラルドグリーン、好みだなあ。
緑を取っ払ってしまえば他の給水塔と大きくは変わらない姿だが、たった1色があるだけで、唯一の無二の存在感を放つようになる、色の魔術よ。
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この日の第一目標でもあった給水塔も無事見ることができ、胸をなでおろした。
もう夕方近いのに、この時外はかなり熱くなっていて、おまけに坂道続きで体力を大分吸い取られてしまった。
しかしあともう1基だけ、見たい給水塔がある。
京王永山駅から京王多摩センター駅へと移動し、次はそこから多摩モノレールへと乗り換える。
最後の目的地は、日野市にある公団百草団地。
程久保駅で降りると、すでに視線の先に給水塔の姿が見えたので、そこまで距離は遠くなさそうにも感じる……が、それは大きな勘違いというやつだった。
百草団地は愛宕団地よりもさらに高低差がある場所に、というかほぼ山の中に建っており、後で考えてみると、歩くのは無謀だったなと思う。
高幡不動駅から多くバスも出ているから、次行くなら絶対バスだな。
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駅から20分ぐらい歩くと給水塔も大分近くなったが、道が曲がりくねっており、ここからまたさらに時間を要した。
時刻は夕方。
暗くなってしまえば終わりだから、のんびり歩くこともできない。
夜の給水塔もいいけど、まずは昼の姿を拝まないとね。
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しかしこの給水塔もまた何とも独特だ。
給水塔は個体ごと細かい違いがあり、見ていて飽きない。
愛宕団地の給水塔のようなビル型だけど、頂点にある穴からアンテナがぴょっこり飛び出ている。
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ようやく眼前へ。
おれの到着を祝うかのように、この時ちょうど空は雲一つない晴天となっていた。
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施設内の建物まで同じ配色と、何気に凝っている。
入口に「三沢配水所」と書かれていたので、厳密にいうとそこの給水塔になるのかな。
給水塔は団地の隣にあっても、必ずしもその団地のためだけの設備ではなかったりする。
この給水塔もどういった流れでどこへと水を運んでいっているのか、気になるな。
ここからまた数十分歩いて、京王線の百草園駅へと移動し、この日の給水塔ウォッチングは幕を閉じた。
百草団地のあたりはスーパーこそあったが他に目立った建物もなく、住むなら車は必須そうだったけど、それがまた外から見ると閉ざされた山中の国のように思えて、疲れはしたけど歩いていて楽しかった。
団地は世界最小の国だ。